雀は頭を強く打っていたせいか記憶を保存する器官に傷をつけてしまい、このような状態となってしまった。
症状は日に日に違う。
調子のいいときには15問中10問当たるし、悪いときは5問しか当たらないときもある。
今は手帳に日記のようにいろいろ書き記すようにして、生活している。

『学校でパニックになっちゃったんだって?』
彩子がカルテをしまいながら雀に問いかけると、彼の表情は少し沈んだ。
『…友達に杏ちゃんの話をしてたら……』
『そう……』
彩子は寂しそうに目を伏せた。
『……杏ちゃんにそっくりな女の子に会ったんだ』
『え?』
雀の言葉に思わず彩子は聞き返す。
『霧島 紫苑ちゃんって言う子なんだ…杏ちゃんより声は低くて雰囲気も違うんだけど…容姿や背丈はそっくりで…』
雀が懐かしむような声色で話すのを彩子はじっと聞いては、机に置かれた写真立てをふと手に取った。
頭に包帯を巻いては照れた表情の雀と、その後ろに彩子が立っておりその横に笑顔を浮かべる少女が写っていた。
その少女は、霧島 紫苑と瓜二つの『観月 杏(ミヅキ アン)』という子だった。
それは、雀が退院する1ヶ月前に撮影したものであった。
『彩子さん、それ…まだ飾ってたんだね』
雀が泣きそうな顔で笑っては彩子の手から写真立てを受けとる。
『……昼食をとってくるからここに居て』
そう彩子は言うと診察室を後にした。
診察室に残された雀は写真立てを大事そうに抱きしめ踞っては、声を押し殺して泣いた。