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……涙が出そうだった。


『幸せ』

『あなたと一緒になって良かった』


友美の口からその言葉が聞ける日が来るなんて、思っていなかったから。

30年間もの年月を共にしてくれているだけで、俺は十分だった。

ただ隣に友美がいるだけで、その上子どもまで授かって、俺は世界一幸せな男だと思っていたから――。






「――友美にプロポーズした」


俺が隼人にそう打ち明けたのは、友美にプロポーズしてからもうすぐ1ヶ月経つ、という時だった。

まだ、友美からの返事はないけど、返事を焦らせるようなことはしなかった。

むしろ仕事の忙しさに身を任せ、あまり考えないようにしていた。

……プロポーズは断られるだろうと、確信していたから。

でも、隼人にプロポーズしたことを伝えてしまったのは、俺の黒い心からだった。


「――……そうか。プロポーズ、か」

「あぁ」


目線を下げる隼人をじっと見る。

……隼人、何を考えてる?

俺のことをズルいと思ってる?

そうだよな。

おまえには一生することができないことを、俺はいとも簡単にしたのだから。