205【足立 景悟】

病室のドアの前で深呼吸する。何をこんなに慌てているのか自分でも分からない。扉の向こうで景悟が寝ているだけじゃないか。大怪我したわけでも、死んだわけでもないのに──

ガチャッ

「あら?乃杞ちゃん。景悟のお見舞いに来てくれたの?ありがとう。どうぞ、中に入って。私は今から、ちょっと出掛けてくるから。」
景悟のお母さんが病室から出てきてそう言った。

本当に何にもなさそうだ。あたしが焦る必要なんて何処にもない。そう自分に言い聞かせて病室のドアを開けた。