どうして?ただの間違い電話。気にしなくていい。それなのに、全然頭がそれを理解してくれない。そんなあたしをあざ笑うかのようにまたけたたましく鳴り響く電話。仕事の電話かもしれない。

「出なきゃ」

口ではそう言いながらも自分の震える手を見るととても出られる状態ではない。怖い。椅子に座ったまま膝を抱え、両手で耳を塞ぐ。早く、鳴り止んで。

電話はその後もずっと鳴り続けていたけれど一度も出られなかった。仕事も全然出来なくて、情けない。春馬たちの仕事の電話だったかもしれないのに。

どうしてこんなにも嫌悪感と恐怖が収まらないんだろう。ふと、脳裏を過った映像。まだ幼いあたしに少しずつ近寄る顔の見えない誰か。あたしはただジッと首を振ることしか出来なくて。

「いや!!」

「莉央!」

大声で叫ぶように拒絶を示した途端、あたしの目に映ったのは息を切らした春馬の姿。汗、すごい。走ってきてくれたの?さっきの映像と全く同じ。あたしはただ首を振ることしか出来なくて、でも春馬はあたしに近づいてくる。

「どうした?大丈夫か?」

「・・・ごめんなさい。嫌だ、来ないで」

「莉央?」

『セキニンヲトッテアゲルカラネ』

鮮明に聞こえた男の声。
あたしは大声で叫び上げてそのまま意識を失った。