今のオレの中には平成にいた頃の幕末への
期待や楽しみは、全くと言って良いほど無かった。
代わりに、不安、絶望、戸惑い。
いろいろな負のイメージばかりがオレの頭にははびこっていた。
たった1人で知らない時代に来て、お金も何もないというのに、
ここで生きていく事が出来るんだろうか?
元の時代に戻れるんだろうか?
おこのときのオレはきっとよほどの悲しい顔をしていたんだろう。
1人のまげの男が話しかけてくる。

「お前さん、ひょっとして旅人かね?泊まる所が無かったんじゃないか?」

まさか、「未来から来た」などとはいえず、オレは無言でコクコクと頷いた。
すると、まげの男は

「うちで働いていくかい?うちは洗濯屋でね。最近、店員が1人やめて大変なんだ。
 もちろん、給金はだすよ。」

予想もしない助け船だった。生きていける、その事だけで、天から陽がさした気がしたんだ。
知らないうちに涙がぼろぼろとでてきてオレは何度の礼を言い、まげの男、
いやこれじゃ失礼だろう。菊池加之助(きくちかのすけ)さんについていった。
もう1人の男は菊池さんの友人で本野小太郎(もとのこたろう)さんといった。