足下から顔を上げると、店の奥では見覚えのある顔が浪士と斬り合っていた。
近藤さん、永倉、総司・・・。そして、他の隊士たち。
全身をすでに黒くなった返り血で覆っていた。
以前見た奴とは別人なんじゃないのか。
そんな淡い期待を持ちながらも、目の前の3人はこないだ会った奴と同じなんだと、頭の中では分かってたんだ。

気を取り直して、辺りを見回すと、原田と平助の顔が見えないのに気が付いた。
必死になって、足下を見渡すけど、2人らしき死体はなかった。
安心する一方、どこにいるのかが気になる。

でも。
オレがあいつらを見つけたからって何になるんだ。
剣術もろくにできない、応急処置もできない。
ただの足手まとい・・・。
それに、新選組の一員でもないんだから。

・・・出よう。

そう、心に決めたときだった。

「うがぁっっっっ!!」

また、平助の叫び声が聞こえた。
それを聞いて、永倉達は、平助の様子を見に行きたいようだった。
しかし、目の前の浪士が手強くて、手こずっている。
もし、これで、平助が死んでしまったら、オレはどう思うんだろう?
悲しいとか、寂しいとか、そんな簡単なものだけじゃない気がする。
きっと、一番強く感じるのは、罪悪感だろう。
それに、あいつともっと長い間一緒に居たはずの新選組の奴らは、助けに行きたいのに行けない歯がゆさをあじわってるんだ。
唯一、自由に動けるオレが、動かなくてどうするんだ。
ああ、まだ出会って一年もたってないのに、新選組はオレの中でも、無くしたくない、壊されたくない、大切なものになっていたんだ。

これが、オレが平成に帰りたくない本当の理由なのかもしれない。