道を通りたいのに、大勢の人がいて通れない。
なんか、異様な雰囲気で、「どいてくれ」なんて言えそうもない。
オレが悩んでいると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「うわああっ!!」

間違えるはずがない。
この声は、平助だ!
無我夢中だったんだと思う。
オレは後先考えずに池田屋に走り込んだ。

踏み込んだ瞬間、ツンと鼻につく嫌な匂い。
洗濯屋でかぎ慣れた汗くささに、もっと嫌な匂いが混じっている。
おそらくこれは、血の、匂い・・・。
足下にあった何かにけつまずいた。
あわてて足下を見ると、血だらけの、浪士が倒れていた。
1人だけじゃない。
辺りには、何人もの浪士の事切れた体が横たわっていた。

入らなきゃ良かった

そんなオレの遅い後悔が頭の中で飛び交っていた。