「おいっ、大丈夫か?!」
マグカップを落としたのは莉桜で、幸いにもカップは割れていない。
中に入っているコーヒーも、ほとんど入っていなかったので、火傷しないレベルだった。
「莉……っ!!」
マグカップを拾って、莉桜の顔を見上げた時、ドクンと衝撃が起きた。
莉桜の瞳から、流れる一筋の涙。
その瞳は、大きく揺らいでいた。
「……莉桜…」
「……っご、めんっ……」
俺の声にはっとして、莉桜は慌てて涙をぬぐった。
そしてすぐに床にまき散らしたコーヒーを拭き始めた。
俺に背を向け、床を拭く莉桜の姿が、小さな子供のように儚くて、俺はどうしようもないほどの愛しさがこみ上げてきた。
「莉桜……」
「…っ」
そしてその、今にも消え入ってしまいそうな背中を、そっと抱きしめた。

