哀しみの音色

 
「莉桜も入るか?」
「あたし、病み上がりなんだけど」
「あ、そうだったな」


さっき自分で言ってたのに、何誘ってんだ……。

思わず反省していると……


「あ、おいっ……」


バシャバシャと音が聞こえ、顔を向けると、莉桜が海の中へ入っていた。


「病み上がりだ、って自分で言ってただろ」
「でも気持ちよさそうだったから」
「そうだけど……」


確かに、目の前で気持ちよさそうに海に入るやつがいれば、入るなというほうが酷なのかもしれない。

だとすれば、俺が悪い。


「ちょっと入ったら、出ような。俺も出るから」
「……」


その声は、もうすでに莉桜の耳には入っていないのかもしれない。


莉桜は足元だけ海に入りながら、遠い向こうを見ていた。