哀しみの音色

 
莉桜はその言葉に何の反応も示さない。

そしてしばらく無言を保った後……



「海……行きたい……」



まさかの提案を出してきた。


「え?今日!?」
「うん」
「いや、さすがに病み上がりで海はまずいでしょ」


季節は初夏。
まだ海開きもしていないので、べつに入ろうという意味ではない。

だけど熱が下がったばかりで、いきなりの遠出はどうかと思った。


「樹が行かないなら、あたし一人で行く」
「あ、おいっ……」


莉桜はさっさとベッドから出ると、海に行く気満々のようだ。


「わ、わかったよ。俺も一緒に行くから」
「……」


少しだけ、莉桜が微笑んだような気がした。