哀しみの音色

 
「お、はよ……。起きてたんだ」
「うん。さすがに昨日寝すぎてね。結構前から目ぇ覚めてた」
「マジか。って、それまでずっとぼーっとしてたのか?」
「樹の顔見てた」


イタズラな笑みをほんのりと浮かべ、そんなことを言う莉桜。

そんなこと言われたら、すげぇ照れるんだけど……。


「悪趣味だな」
「樹だって、昨日見てたでしょ?人の寝顔」
「う……」


見てない、と言えば完全に嘘だ。

昼間、ベッドで眠る莉桜を、家のことをする合間合間にずっと見てた。


「だからおあいこ」
「……」


なんだか莉桜には、絶対に敵わない気がする……。


「で?熱は?」
「うん。たぶんもうない」


そう言った莉桜の顔色は、確かにもう普通の時と同じ様子だった。

そのあと、念のため熱を測らせてみたけど、完全に平熱になったようだ。


となると……



「家に帰るか?」



もう、莉桜をここに引き留めていく理由がない。