「弱ってると……思い出したくないことも思い出してしまう……。
 一人で部屋に引きこもると、逃げる場所もなくなる……。
 だから」


彼女が、何を言おうとしているかまでは分からなかった。

だけど彼女には、人には打ち明けられないほどの、何かを持っているのかもしれない。


「今もそう……。
 弱っているせいで、こうやってアンタに甘えてる」


それでもなお、もたれている体重はそのまま。

俺はなんだかそれがすごく儚く感じて、彼女の肩に腕をまわした。


「いいじゃん。甘えれば。
 俺は大歓迎だけど」

「……なにそれ」


その言葉に、ほんの少しだけ彼女は笑った気がした。

たった少しのその変化が、俺には嬉しくて仕方がなかった。



「みず…しまさんはさ……」

「莉桜」

「え?」

「莉桜でいい。苗字はかゆいから」



この時、初めて「俺」が彼女の名前を呼ぶことを許された気がした。