「あの歌は、やっぱり蓮さんへ向けてのものだったんだな」
ふいに思い出された莉桜の歌。
出逢った当初、よく歌っていた。
とても哀しい歌声で……。
「……うん。蓮はあたしの歌が好きだったから…」
莉桜はベッドから抜け出すと、窓を開けた。
そして遠い向こうを見渡す。
「よく、蓮がギターを弾いて、あたしが歌を歌ってた。
バンドとか歌手とか目指しているわけでもなく、ただ一緒に……。
それが何よりも、幸せなひと時だった」
「……」
きっと今、莉桜の心の中には、蓮さんで占めている。
だけど今だけは、そっと見守っていたい。
「だから歌を歌っていれば、遠い空の彼方まで届くんじゃないかって……。
蓮まで聞こえるんじゃないかって……」
空を見上げる莉桜。
俺は莉桜の背中を見つめていた。