十二の暦の物語【短編集】

目を見開いて賽銭箱に集る人ごみを見る
賽銭箱の前くらいの位置から、人ごみから突き出た腕があった
その腕は拳に何かを握っていて(多分お賽銭)、ぶんぶんと振られていた

「ちょっ、マジでホントっ。俺色々お願いしなきゃなんねぇのー!!!!」

この声は…
この甲高くて明るい声は…
3年前に聞いたまま変わらない声

『和哉…?』

からん。とお賽銭が投げ入れられる音がした
それに続いて、ぱんっ。という強い手と手を合わせた音

それから数秒後、人ごみから1人の少年が出てきた

少し茶色いショートカット
黒のファーの付いた黒いダウンジャケット
少し裾を引きずった腰履きのダメージジーンズ
走り終わると必ず後頭部を掻く癖

その少年が顔を上げた

まともに目が合ってしまって、反らせない
明るい茶色の大きな瞳目一杯に見開かれたまま数秒…

「睦月!?」

私を指差して大声を上げた

『和哉…!?』