司はこれまでの人生で一番悩みこんでいた。
 もうすぐ司にとって最大の試練がやってくる。
 それは中間試験である。
 これまで仕事の都合上、試験勉強などまともにやった記憶がない。
 普通科目ならば問題ないのだが、ここはお嬢様学校なのだ。つまり一流のお嬢様になるための施設であるため、そのための特別科目もカリキュラムに組み込まれている。
 それは着付けだったり作法だったり。
 それら特別科目は徹夜勉強などしようもない。
「うわ〜。参った。どうしよう」
 机の上に突っ伏し頭を抱える。
「その分やと赤点確実のようやな」
 余裕の笑みを浮かべ美琴が司の前に仁王立ちしていた。
「心配しなくても、お前よりは点数は上だから」
「ほっほう? ウチと勝負する気かいな?」
「そっちが望むなら」
 司は意外と冷静だったが、対する美琴は少し声が震えていた。
 司の成績ははっきり言って優等生クラスなのだ。お嬢様関係の科目がなければ、学園でも五番内に位置している。
 美琴も当然それを知っている。だからこそ今も司の視線を避けているのだ。
「俺だってマナーは最低限の事は叩き込まれたから、0点って事はない。着付けもまあ、順序はもう覚えたから見映えだけだしな」
「な、なかなか強気やんか」
「美琴さん。今からでも撤回なされたらどうですか?」
 哀れみの目で咲枝が美琴に語りかける。
 しかしこれが逆に美琴の闘争心に火を点けた。
「上等やんか。絶対負けへんからな」
「そりゃ楽しみだ。薫さん、美琴が負けたら何をさせます?」
「な、なんやそれ! ウチ聞いてへんぞ」
 思いっきり動揺している美琴だったが、薫はどこか心ここに在らずと言った感じだった。
「薫さん?」
「え? 今呼びましたか?」
「呼びましたよ。何十回も」
「ご、ごめんなさい」
「冗談ですよ。どうかした? なんかぼーっとしてたけど」
「いえ。何でもありません。ご心配かけてすみません」
「いや。それは別にいいんだけど」
 こうして話していても薫の気持ちが違うところにあると、感じ取った司たちであった。