「いやなんでもない。忘れて」
「駄目です。気になります。私昨日の記憶が曖昧なんですから」
 ならばなおさらとも思ったが、司は観念し正直に白状した。
「…………嘘。私が司さんにそんな事を」
 ボッと顔が一瞬にして耳から肩まで真っ赤になった。
「薫、グッジョブ!」
 なぜか美琴が喜び親指を立てる。
「美琴! 恥ずかしいんだから止めてよ」
「ホント美琴はこういうネタが大好物だよな」
「当然やんか。大阪人なら見逃したら嘘やな」
「薫さんにそのようなご趣味があったとは、知りませんでした」
「もう。咲枝さんまで私をからかわないでください。司からも何か言ってください」
「え? いやだって事実だしな。まぁあの時の薫は可愛いかったけど」
 司の一言が決め手となり、薫は頬を膨らませあさっての方を向く。
「もう知りません!」
「いや。薫さん。ゴメン。ちと悪ふざけが過ぎたよ。ほらっ二人も謝って」
 司に促され、二人も薫に謝った。
「申し訳ありません。薫さん。私そんなつもりではなかったのですが」
「勘忍してや? ウチと薫の仲やんか。ほ、ほらっ司が作った朝食一緒に食べよな? とっても美味しそうやんか。冷めたら味が落ちてしまうで」
「……………」
 キュゥゥ〜。
 なんとも可愛い音が聞こえてきた。
 どうやら薫の腹の音らしい。お腹を押さえ恥ずかしそうに顔を俯かせる。
「さあ薫さん。食べよ? 温かい方が美味しいよ?」
 しばらく沈黙していた薫であったが、食欲に負けたらしい。無言でテーブルの前に座る。
「さ、さあ。咲枝さんも美琴も座って。朝食にしようぜ」
「わ、わーい! 美味しそうやな」
「司様は何でもお出来になるんですね」
 作り笑いのせいか、多少引き攣っていたが、強引に無視して朝食を摂る事にした。
 それからと言うもの、自分がお嬢様と言う事を忘れはしゃぐ三人を、あたふたしながら、司がフォローしていった。
 そして家に戻るバスの中、薫や美琴そして咲枝は満足した表情で眠りに就いていた。
 そんな三人の寝顔を優しく見守り、司はこんな時間を大切にしたいし、守っていきたいと心に誓うのであった。