それからと言うもの茜は休み時間毎に教室に訪れて来た。
 そして当然その度に司はどうにか隠れてやり過ごしていた。
「ふぃ〜。なんたって今日はこんなにしつこいんだよ」
 昼休み食堂のテーブルに突っ伏していた。
「そない言うんならさっさと勝負して、負けたったらええやんか」
 司の横に薫、そして正面には美琴と咲枝が座っている。
「俺にわざと負けろってか? んなもんばれるに決まってるだろ?」
「そうだよ美琴。琴崎先輩は真剣なんだから、そんな事したら失礼だよ」
「ですが剣道部は近々地区大会があるとか」
「そう。それなんだよなぁ〜」
 大会が近いため下手に勝負を受けて、それで怪我でもされた日には後が怖い。
「でしたら琴崎先輩に怪我を負わせない様に、司さんが勝てば」
「薫さん。それすんげぇぇぇぇ難しいんだけど」
 相手が自分よりも弱いなら出来なくもないが、自分と同等もしくはそれ以上となると、話は別である。
「ですが難しいと言う事は、出来ないわけではないのでしょう? 司様」
 聞いていないようでしっかり聞いている咲枝が、ニコリと微笑む。
「ん〜。まぁ剣道にしなければ、な」
 要は自分の土俵に相手を立たせればいいのだ。それならばいくらでもやり方がある。
 ただしどうやって相手を自分の土俵に立たせるのかが、難しいのだが。
「せやけど自分、今朝自ずと剣道になるって言うてたやんか」
「そりゃそうだろ? 相手は大会間近でしかも女の子なんだぞ? 怪我でもしたら大変じゃねえかよ。となったら防具着けて正面向き合って、合図して打ち合う剣道になるじゃねえか」
「司さん。優しいんですね」
 薫は司が女の子として心配している事が嬉しかった。
 だから自然と笑顔も優しくなる。
「さすがですね。司様」
 咲枝も司の気遣いに気付き微笑む。
「ほなら、剣術はどないなん?」
「剣術か? 剣術は防具も合図もない。相手を気絶させるか、参ったを言わせるまで打ち合う」
「怖っ! さすがにウチでも引くわ」
 美琴がおおげさに体をのけ反らせる。
「…………あっ」
 咲枝が何かを見て声を出す。
「あっちゃ〜」
 美琴もばつが悪そうに表情を歪めていた。
「見つけたぞ。御影」
 後ろから聞こえてくる声、気配、殺気。
 振り替えらずとも司は誰か分かった。