司は空を見上げ一人黄昏れる。いくら周りが受け入れてくれても、御影の人間。特に当主ともなればこんな明るい世界にいてはいけない存在なのだ。
 木の葉もそれを知っていて、あえて生徒として参加させたのだろう。
 後ろではシックな曲が流れ華やかな雰囲気がある。が、バルコニーは暗く孤独な雰囲気が流れていた。
「…………ふぅ。これが現実か」
 一人大きくため息を吐いていると、背中に気配を感じ取る。
「……司、さん」
 振り返るとそこには薫が立っていた。
「どうした? こんなところに」
「わ、私と踊ってくれるパートナーがいなくって」
 それが嘘だとすぐに分かった。
 薫ほどの女の子ならばもうすでに、何人かは声をかけられているはずである。
「そ、それでですね? その…えっと」
 顔を俯かせモジモジとしている薫の後ろに美琴の姿が見えた。
 つまりそういう事なのだ。美琴がたきつけたのだろう。
「ったく。あいつは」
 先程まで沈んで黄昏れていた自分が馬鹿らしくなってきた。
「俺もダンスパートナーがいなくて時間を潰していたところだったんだ」
「じゃあ!」
 薫の表情が一気にパァッと明るくなる。
 だが司は少し意地悪をしてみる。
「だけど確かこういう時は女性から誘うもんだと記憶してたんだけど?」
 司の意図を悟り、薫が頬を膨らませる。
「…分かりました。どうか私と踊っていただけませんか?」
 スカートの両端を摘み会釈する。
「こちらこそお願いいたします。薫さん」
 司も両手をそれぞれ前後に添え紳士的に会釈した。
 薫の手を取りダンスホールへと向かう。
 二人の参加を待ち望んでいたかのように、新しい曲が始まる。
「そ、それじゃお願いします」
「…こちらこそ」
 薫は明らかに緊張していた。
 そのせいか手が触れた途端に、薫の体がガチガチに固まる。
「薫さん。そこまで緊張しなくても」
「…は、はい」
 やれやれと司はわざとオーバーに動き回って見せる。
「ちょ、司さん」
 司に振り回され、薫の緊張が解れる。
「突然何を」
「緊張しなくなったろ? 本場はこれからさ」
 それからと言うもの二人は司のリードでダンスを踊り、社交界を満喫したのだった。