正装を実家に忘れてきたと言う言い訳をしようと思ったが、荷物の中にちゃんと正装がきれいに畳まれ収納されていた。
「…………はあ。どうしたもんかな」
 窓から外を眺め途方に暮れる。
 正装で出席するのは構わないのだが、絶対一人だけ浮くのが目に見えていた。
「あなたがそのような表情を見せるとは意外ですわね?」
 声が聞こえた方に振り向くと、そこには桜子が立っていた。
「幸路、さん?」
「ご機嫌よう。御影さん。私の名前を覚えていらっしゃったとは、光栄ですわ」
 その態度は別に高飛車とは違い接しづらさは感じられなかった。
「何かお悩み事でもありまして? 私で良ければお伺いしますけど」
「…………」
 司は少し考える素振りを見せるが、観念して口を開く。
「あのさ? さっき聞いたんだけど、今度他校との社交界があるんだって?」
「ええ。そのようですわね? それが何か」
「やっぱ幸路さんも参加しちゃったりする?」
「当然ですわ。全校生徒参加の催し事ですから」
「………………やっぱそうだよなあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 思わず崩れ落ちそうになる体を、どうにか持ちこたえる。
「社交界がどうかされたのですか?」
「いや。やっぱ俺も参加しなくちゃいけないかなってさ」
「心配なさらずとも、相手の学校は共学ですから、男性もいらっしゃいますよ」
「いや。そこは別に平気だけどさ。俺、社交界の警備頼まれてるし」
「警備…ですか? どうして御影さんが?」
「俺の家の家業でね。一応俺が次期当主だから」
「そうなのですか。それはとても素晴らしい事ですわね」
「まっ、トラブルは起こさせないから、そこら辺は安心してくれ」
「それは頼もしいお言葉ですわね。頼りにさせてもらいます」
 優しく微笑む桜子の笑顔に思わず見とれてしまう。
「ん? どうかしまして」
 司の視線に気付き桜子は首を傾げる。
「え? いやなんでも」
「そうですか? それでは私、所用があるのでこれで失礼させてもらいますね? ご機嫌よう」
 桜子は軽く会釈して司の前から立ち去っていった。