「も、もう! 美琴!」
 耳まで顔を真っ赤にさせて薫が怒鳴った。
 確かにあの時、道にうずくまっている薫を助けた。
 自分としては何気なく助けたに過ぎないが、これほど思ってくれていたかと思うと、なんだか無性に嬉しくなった。
「そうだ。あれから足の痛みはない? 腫れとか大丈夫?」
「はい。あれから嘘みたいに痛みとか腫れがひいていきました」
「ん。そっか。でも一応は医者に診てもらいなよ」
「はい。ありがとうございます。司さんって優しいんですね?」
「そうか? こんくらい普通だろ?」
「せやで? 薫。男はこれくらいの優しさ持つんは普通や」
「…なんでかな? 美琴に言われると無性に腹立つのは」
「なんでやねん!」
「そ、それよりも早く理事長室に行かなくていいの? あまりお待たせするのはよくありませんよ」
 ナイスタイミングで薫が割って入る。
 出鼻をくじかれた美琴は何か言いたそうだったが、ぐっと言葉を飲み込んでいた。
「それもそうだな。んじゃ俺行くわ。またな」
「はい。司さん。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう。司」
 二人と別れようやく教室を出る。
 別に時間を決められたわけではないのでのんびり歩く。
「むむっ! この足音は司君と見た!」
 声をかけてきたのはあ盲目の刻羽だった。
「刻羽さん? よく俺って分かりましたね?」
「ぶぅ。前に言ったじゃない。司君の足音を覚えたって」
「あ〜確かに言ってたような」
「酷いなぁ。プンプン」
 年上のはずなのだが妙に子供っぽい刻羽の仕草に、司は思わず微笑む。
「ははは。すみません」
「いいよ。許してあげよう。それでこれからどこかに行くの?」
「ええ。これから理事長室の方に」
「………もしかして司君なんか悪い事でも」
「してません」
 刻羽の言葉を遮り司は先手を売った。
「な〜んだ。つまんないの」
「いやいや。勝手に人を悪者扱いしないでくださいよ」
「それはごめんごめん。…おっと司君、急ぐんだよね? 引き止めてごめんね」
「いや、いいっすよ。別に急いでないですし」
「そっか。よかった。でもこれ以上引き止めるのも悪いし、また今度ね? ご機嫌よう司君」
「ん。また今度」
 刻羽と別れ司は今度こそ理事長室へと向かって行ったのだった。