「これでわたしたち友達だね? 今度会ったら声かけてね? わたしも声かけるからさ」
「それはいいけど、刻羽さんって目が…」
「うん。お察しの通り目が見えないんだ。昔事故に遭ってね。それ以来見えなくなっちゃった。お医者さんは精神的なものだから、すぐ見えるようになるって言ってたけど気付いたらこんな年になっちゃった」
 刻羽は明るい声で言っているが目が見えないと言うハンディキャップは、生きていく中で大変だっただろう。
「ごめん。気が利かなくて」
 司の声のトーンが落ちている事に気付き、刻羽は明るく振る舞う。
「司君が気にする事ないよ。みんなには良くしてもらってるし。それに司君。わたしを見くびってないかな?」
「え?」
「司君の足音をちゃんと記憶したから、次からは司君の事分かるよ」
 目が見えない人は他の感覚が鋭くなると言うが刻羽のそれはまさにそうだろう。
「それは楽しみだな。じゃあ次は足音を消して、声かけるよ」
「うわっ。司君って意外と意地悪! そんな事じゃ女の子にモテないぞ」
「ははは。ごめん」
「うむ。よろしい!」
 司が謝ると刻羽は両手を腰に当て仁王立ちしていた。
 しかし薫と言い美琴と言いそして刻羽と言い、どうにもこの学園はお嬢様らしくないお嬢様がいるようだ。
「それじゃ体も冷えてきたしわたし、先に部屋に戻るね?」
「ああ。分かった」
 刻羽は司に手を振って別れ、器用にドアを開けてバルコニーを後にした。
「凄いもんだな」
 目が見えていないとはまるで思えないほど、スムーズに歩いている刻羽を見て司は感心した。
「さてっと。俺もそろそろ部屋に戻って報告書を書かなくちゃな」
 ふと頭の中に疑問がよぎり足を止める。
「ん? 待てよ。刻羽さんは二年生だよな? なんで一年生の棟にいたんだ?」
 いくら考えても答えなど出てくるはずもない。
「まぁ次会った時にでも聞けばいいか」
 とりあえず今は報告書と言う脅威を取り除くのが最優先事項である。
 刻羽と会ってなんとなく気分もすっきりした司の足取りはとても軽く、懸念していた報告書もあっという間に片付いてしまったのだった。