お嬢様重奏曲!

「……今のこっちの世界の魔法じゃねえな。世界の構成に変な負荷がかかってる」
「おや? やはり分かるかい。さすがだね」
「お前。何者なんだ?」
 司の言葉にカオスは少しだけ笑った。
「そこは分からないのかい? 薫さんは惜しいとこまでいったんだけど」
 カオスは仮面に手をかけた。
「世界とは一つじゃない。同じ時間軸に無数の世界が存在する。それを平行世界って言うんだけどね」
 ゆっくりとカオスは仮面を外す。
「平行世界には同じ人間が存在する。細かいところは多少違うけどね。そして歴史も多少異なる」
 仮面を完全に外し、床へと放り投げた。
「つまりお前は平行世界のもう一人の俺ってわけか」
 司の目の前にはもう一人の司が立っていた。
「おや? あまり驚かないんだね」
 少しがっかりした表情を見せるカオスに、司は変な気分になった。
「俺も薄々は気付いていたからな」
「…なるほどね。さすがは僕だ。それじゃ戦いを再開しようか」
「ちょっと待て! なんでお前がここにいるんだよ! そっちの薫さんはどうした」
「こっちではちゃんと魔法使いしてたよ」
「……してた?」
「そうだよ。今は魔法使いではない。僕が魔力を吸収したからね。まあ今頃は衰弱して寝込んでいるだろうけど」
「なんだと? お前、守護者だろうが!」
 カオスの言葉に司は激怒した。それは守護者としてやってはいけない事だったからだ。
「何も知らない君が何を言う。だから僕は許せないんだ。こんな幸せな世界でのうのうと暮らしている君に」
 カオスの周囲にあの魔法陣がいくつも現れた。
「なぜ僕たちの世界はこんなにも!」
「だがお前はやっちゃいけない事をやったんだ」
 司も負けじと魔力を増幅させる。その魔力の密度と量に空間が歪み始めた。
「これ以上、君と話しても平行線だね」
「元々話し合うつもりはないけどな」
「なんで同じ人間なのにこうも違うのかな?」
「俺とお前はもう同じ人間じゃねえよ!」
「……そうだね。僕は自分のために」
 カオスが構える。
「俺は守りたい人たちのために」
 司が構える。
「「いざ、勝負!!」」
 二人同時に前へと飛び出し、最終決戦の火ぶたが切って落とされた。