お嬢様重奏曲!

「お前ら! 準備はいいな! やりやがれ!」
 慶一郎の命令で、御影一族の魔法使いたちが一斉に攻撃を開始する。
 すると司たちの目の前には結界に向けて、真っ直ぐな一本道が出来上がっていた。
「こ、これはさすがに凄いとしか言えないな」
「いまさらだけど御影って凄いのね」
「あんたたち。呆けてる場合じゃないわよ」
 口を開けて呆然と空を眺めている二人に、木の葉は手を叩く。
「そ、そうだな。この道もいつまで維持出来るか分からないし。二人とも出発するぞ!」
「了解!」
「分かったわ!」
 先に司が上空へと飛び立つと、その後を追って美凪、木の葉の順番で飛び立った。
 結界に到着するまで敵に出会うどころか、攻撃など一切なくすんなりと結界に到着する事が出来た。
 結界の中はまるで中世ヨーロッパの古城のようになっており、結界の規模よりも広くなっていた。魔法によって空間をねじ曲げたのだろう。
「こんだけの魔法を使っても自分は余裕だって、言いたいわけね? あいつは」
 美凪が苦笑し、それを見た司は肩を透かす。
「ここでぼやいていても仕方ない。先へ進むぞ」
 しばらく道なりに進んで行くも、いっこうに迎撃してくる気配が見えなかった。
「これはどういう事だ?」
「外の迎撃で手一杯ってわけじゃない…よね?」
「簡単な話よ」
 木の葉の口調に怒りの色が多少見えた。
「どういう事ですか?」
 美凪が尋ねると今度は大きくため息を吐いた。しかしどうやら美凪の質問に呆れているわけではないらしい。
「カオスはこの状況を楽しんでいるのよ。全くガキとしか言いようがないわね」
 つまりカオスはゲームと同じ感覚で、戦闘を行っていると言うのだ。
 しかしそれは逆を言えば今の状況を楽しむだけの余裕が、カオスにはあると言う事なのだ。
 だからなのだろう。三人の中で唯一、美凪だけが不安げな表情を浮かべていた。
「大丈夫だ。美凪。俺がついてる」
 優しく微笑み、司は美凪の頭に手を置いた。
「…司……って私は子供じゃないわよ!」
 顔を真っ赤にさせて司の手を払いのける美凪の表情には、すでに不安の色は消えていた。