あれから司と薫は学校の屋上へと移動した。
 紅く照らす夕日と冷たい風が二人の髪を微かに揺らす。
「なんかゴメン。こんな事になっちゃってさ」
「そんな。司さんは悪くないです。悪いのはカオスさんなんです……」
 言ってから薫はどこか、納得していない表情を見せた。
「何か言いたそうだね。もしかカオスは本人は、いい人かも…とか?」
 司の言葉に薫は一瞬だけ肩を震わせた。
 そして切なそうな表情で重々しく、口を開く。
「……はい。私、どうしてもカオスさんを見たら、淋しそうって言うのが思い浮かんじゃって。それに…」
「それに?」
「なんだか私、始めて会った時、なぜか司さんだと思ってしまったんです。おかしいですよね? カオスさんと司さんは別人なのに」
 その言葉に司は少しだけ考えるそぶりを見せた。
「……いや。あながち間違いじゃないかもな。俺とあいつ」
 これまでのカオスの言動を振り返り、司にはいくつかの予測があった。
 そして上空に広がっている馬鹿でかい結界を見上げ、司は物思いに耽る。
 薫も司の視線を追いかけて、上空を見上げる。
「あそこに皆さん行くんですよね?」
「ああ。下準備もあるから、行くとしたら冬休みの頭からだな」
「………そう、ですか」
「悪いな。今年の冬休みは一緒にいられないや」
「い、いえ。皆の平和を守るための戦いなですから、仕方ありません」
 そう言う薫の表情は当然、優れないものだった。
「………司さん」
 とても思い詰めた表情で薫は司を見つめる。
「やっぱり行かないわけにはいきませんか? だってこっちの準備が出来るまで、何もしないって言ってましたし」
 それは心揺れる提案だったが、司は無言で首を横に振った。
「……そうですよね」
 薫はトンと自分の体を司に預けた。
「ですけどお願いです。どうか無事で帰ってきてくださいね」
「ああ。分かった。約束する。俺は守護者だからな」
 薫を優しく抱きしめ、
司は生き抜く覚悟を決めたのだった。