学園祭もいよいよ終盤となり、昼間の騒ぎが嘘のように静かだった。それはまるで、これまでの余韻を楽しんでいるかのようにも思えた。
「さて薫さんはっと…お、いたいた」
 薫の魔力の波動を感じ取った司は、薫の元へと向かう。
「薫さん、お待たせ」
「ひゃうっ! つ、司さん。驚かせないでください」
 薫は屋上にいたので司は真上に空間転移し、逆さの状態で薫の前に現れたのだ。
「ハハハ。ゴメンゴメン。ついつい」
 くるっと回転し薫の横に立つ。
「きれいな夜空だね?」
「…そうですね? もしかしてこれも司さんが?」
 以前似たような事を司がやってのけた事を、薫は思い出した。
「まさか。いくらなんでもここまでおおっぴらには魔法は使わないよ」
「そ、そうですか。そうですよね? 私ったら何言ってるんだろ」
「でもそれくらいきれいだよね」
「下降りるかい? もうそろそろフォークダンスが始まるけど」
 司が下を覗き込む。下ではライトに照らされた噴水を中心に、生徒たちが集まっていた。そこには男子の姿もチラホラ見えている。
「えっと…やっぱり恥ずかしいって言うか」
 夜空で暗くはあるが薫の頬が赤くなっているのが、司には分かった。
「…しょうがないな」
 司が右腕を振り上げると、屋上全体に結界が張られる。
「これで屋上には誰も入ってこれないし、中の様子は外からは見えない」
 やがて下から音楽が流れ始めた。
「司さん。よろしければ私と一曲、踊っていただけませんか?」
 スカートの両端を摘み会釈する。
「喜んで」
 司も紳士的に会釈をして、薫の手を取った。
 曲に合わせて二人は踊る。
「ダンスもお得意なんですね?」
「ま、多少はね?」
「……今が終わらなければ良いのに」
 そっと呟く薫に司はそっと微笑んだ。
「そうだね。でも願い続ければ、それはいずれ形になるさ」
「………司さん」
「……薫さん」
 二人の動きがやがてゆっくりとなり、動きが止まると二人の影は静かに闇夜に重なった。