そしていよいよ学園祭当日がやって来た。
「やっぱいくらお嬢様学校って言っても、学園祭の時は盛り上がるもんなんだな」
 在学生やらOB、来客などが学園に大勢集まっていた。
「それはそうですよ。皆さんだって楽しみにしてたんですから」
 司の隣で薫が可笑しそうに微笑んでいた。
「そりゃそうだけど…。ってか凄い人だな。去年よか人が入ってるんじゃないのか?」
「かもしれませんね? 司さん。はぐれない様、気をつけてくださいね」
「今の言葉、そっくりお返しするよ」
「どういう事ですか。それってキャッ」
 擦れ違いに肩が通行人にぶつかり、その場でよろめく。
「ふえ? あの…その」
 そしてそのまま人波に押し流され、あっという間に薫の姿が遠くなっていった。
「…やれやれ」
 見れば知らない男性四人に声をかけられ、戸惑っている。
 司はすぐに薫の元へ駆け寄った。
「悪いな。彼女は俺の連れなんだ」
「あん? なんだお前」
 突然の乱入者に男たちは威嚇の態度を見せる。
「五秒やる…失せろ」
 司が睨みを効かせると、男たちは何やら捨て台詞を吐いてその場から立ち去って行った。
「……あ、ありがとうございます。司さん」
 薫は恥ずかしさから、頬を赤くさせ俯いていた。
「大丈夫? だから気をつけて欲しかったのに」
「……すみませんでした」
 肩を落とす薫に司は大きく息を吐き、右手を差し出した。
「………ふう。ほれ」
「?」
「言っておくけど、お手とかそんなお約束はいらないからね」
「……………っ!」
 しばらく司の右手を見つめ、ようやくその真意を悟ったのか、ボン! と顔を耳まで真っ赤にさせた。
「…どう、かな?」
 司も照れ臭そうに笑って見せる。
「………あ、あの。よろしくお願いします」
 しばらく躊躇っていたが、薫は司の右手にそっと手を添えた。
「エヘヘ。司さんの手って思ってた以上に大きかったんですね」
 手を握ると二人の顔が限界近くまで赤くなる。
「んじゃ、行こうか?」
「そ、そうですね?」
 初々しさを全面的に押し出しながら、司たちは雑踏の中へと挑戦したのだった。