ここ最近学園内が騒がしくなっていた。どこのクラスもあちらこちらと物作りに励んでいた。しかし作業をしている生徒たちの表情はとても輝いていた。
「あれから一年になりますね」
「……そうだな」
 学園にテロリストが現れ、そして司がクラスメートに自分の正体をばらしてから、もう一年が経ったのだ。
「今年は何事もなく過ごしたいものだがな」
「フフッ。そうですね」
 司の言葉に薫は苦笑した。さすがに薫も二度とあんな事はごめんなのだろう。
「しっかし今年はある意味去年よか大変だし」
「台詞の方は大丈夫ですか?」
「まぁ何とかな」
「司さんの演技楽しみです」
 そう今からかれこれ三ヶ月ほど前のある日。突然演劇部の方から助っ人を頼まれたのだ。
 劇の内容はオリジナルで一億五千万の借金を抱えた不幸で貧乏な少年が、超お金持ちの少女に助けてもらい執事として働くと言う、どこかで聞いたような危険な物語であった。
 男役も考えていたのだが、本物の男がいるならと言う事でお声がかかったらしい。
「俺、人前で演技を見てもらうのって初めてだから、緊張する」
「大丈夫です。司さん。そういう時は手の甲に鬼って書けば、封印解放で一撃必殺ですから」
「いやいやいや。俺の手は鬼の手じゃないし。そこ普通は手の平に人って字なんじゃないか?」
「じゃあ字を書いて、バックに火竜が写るわけじゃないんですね」
 残念そうに薫は肩をがっくりと落とした。
「なんでがっかりしてるの? ってか話ズレてきてないか?」
「ご、ごめんなさい。そ、そう言えば今年も学園祭の警備をするんですか?」
「ん? するよ。っても今年は美凪がいるから、それほど時間を取られないだろうけど」
「そうですか」
 司の言葉を聞いて薫はホッと胸を撫で下ろす。
「あ、あの。それでしたら、もし良かったらでいいんですが、私と一緒に学園祭を回ってくれませんか?」
 顔を真っ赤にさせ、俯かせながら、勇気を振り絞り司を誘った。
 そんな薫を見て司は優しく微笑む。ここまでされて断るようでは、男として最悪である。
「こっちこそ。薫さんが俺でいいんなら喜んで」
 司の返事に薫はさらに顔を赤くさせたのであった。