あれから十数人の女の子に襲われ、司はやむなく魔法で脱衣所へと空間転位する。露天風呂の周囲にドーム状の結界を張り、中の湿度を一気に上昇させる。すると中は一気にサウナ状態となり、クラスメート全員がちゃんと謝るまで魔法を解除しなかった。
 それから二時間後に結界を解除し、今司は着替えてラウンジで夜風に当たっていた。
「俺に何か用かい? 薫さん」
 声をかけてから司は後ろに振り返る。
「えと…その……あの」
 何やら薫は顔を俯かせモジモジしている。
「さっきの事なら、もう気にしてないさ。ただお嬢様なんだからもう少し、気品と礼節を気にかけるべきだな」
「………すみませんでした」
 薫は素直に深々と頭を下げた。
「薫さんも涼みに来たんだろ? 良かったら隣来る?」
「はい。失礼します」
 司の横に来ると薫は司を見て、微笑む。
「司さんは私の考えている事、全部分かっちゃうんですね?」
「そうか? んな事もないと思うけど。でももしそれなら俺の前じゃ悪い事出来ないな」
「フフッ。そうですね? 気をつけます」
 薫は夜空を見上げ、ため息を吐く。
「なんだか私、司さんにご迷惑をかけてばかりですね?」
「迷惑? 迷惑なんて思った事ないさ。むしろ俺みたいなやつが頼られてるって思うと、感謝したいくらいだよ」
「でも入学式の時も、ゴールデンウイークの時も、婚約させられそうになった時も、司さんは助けてくれました」
「まぁ守護者として当然の事さ」
「それはお仕事して私を守ってくれたって事ですか?」
 薫の表情が暗くなったのが分かる。
「薫さんはなんで俺たちが守護者と名乗るか知ってるかい? それは守りたい者を守る時に、誓うための名前なんだ。じゃなかったらわざわざ神楽にケンカなんか吹っ掛けないさ」
「それじゃあ」
 薫の表情が一気に明るくなる。
「呼んでくれれば駆け付けるさ。守護者としてな」
 司は出来るだけ強くそして優しく、薫に微笑みかけた。
「あ、ありがとうございます。司さん」
 司の笑顔を見て薫の顔がボッと赤くなった。
「んじゃ湯冷めする前に部屋に戻ろうか? 明日は早いしな」
「はい。そうですね」
 少し名残惜しかったが薫は司と共にラウンジを後にした。