「いいの? 司は怒らせると怖いわよ?」
「え、ええんや。確かに司は怒らせたら怖いかも知れへんけど。司が怖くて商売が出来るか!」
 美琴の言葉は強気だがその声はどこか震えていた。
「やれやれね。それで? 私は何をすれば?」
 大体の状況を把握した美凪は司の言葉に従い、喫茶店を手伝う事にしたのだった。
 その頃司は肩を落としながら、それでも真面目に客呼びをしていた。
「うぅ…。なんで俺がこんな事を」
「あ、あの司さんはきれいですから落ち込まないでください」
「薫さん。それフォローになってないから」
 どことなく薫にトドメを刺された感じで、司のやる気は更に急降下していった。
 しかも先ほどから男女問わず視線の的になっているのだ。
「俺、恥ずかしさで死ぬかも」
 中にはナンパしてくる男もおり、一瞬全員の記憶を消し去り、いなくなろうとも考えた事があった。
「もう少ししたら交代の時間ですから、頑張りましょう? 司さん」
「…………………はぁ。欝だ」
 薫に励まされながら、懸命に笑顔を作り愛想を振り撒く司であった。
 やがて交代し客呼びから接客に代わったら代わったで、大変だった。
 どこで知識を得たのか知らないが、なぜか指名制度が導入されていたのだ。
 そのせいで司はあちらこちらとテーブルを回り、時には写真や握手を求められる事もあった。
「やはり司がクラスの中で一番ポテンシャルやクオリティが高いわ」
 隅で司の働きぶりを見て美琴が頷いていた。
「美琴! てめ…あなたも働いたらどうかしら?」
 思わず地が出そうになったが、なんとか自制する事に成功した。
「………後で殺す」
 殺意の込めた視線をぶつけ、指名が入ったので司はテーブルへと向かう。
「……アハハ。ちとやり過ぎたかも知れへんな」
 美琴の心にようやく後悔の文字が浮かび上がった。
「それ、今更言うんだ?」
 美凪も美凪で指名が多く、美琴とすれ違い様にボソッと囁いた。
 しかしこのおかげと言うか一日目の売り上げは司のクラスが、断トツのトップに踊り出たのだった。