空は清々しいほどに晴れ晴れで風は春の気配を運び、桜並木の下を着慣れない制服に身を包んだ少年少女たちが、期待を胸に未来に向かって歩いていた………。
 なんてどこかのマイナーな詩人のような事を心の中で詠み耽る少年が、一人ビルの屋上に立っていた。
「……………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」
 盛大なため息を吐きつつ少年は青空を仰ぎ見る。
 少年の名前は御影司。御影家は代々魔法使いの血族として裏の世界でその名を轟かせており、司はその十三代目の後継者である。
 世間はまさに入学式シーズン。
 本来ならば今頃は司もあの中に混じっていてもいい年頃なのだが、家業を受け継がなくてはならない事と仕事の依頼をこなしていかなくてはならない為に、環境がそれを許してはくれなかった。
 魔法使いとして生きていくのは嫌いではないし、これまでもそんな生き方に疑問を持った事は一度もない。
 ただ時々普通に学校に通っている同年代の友達を羨ましいと思う事があった。
 司とて中学までは学校に通わせてもらえていた。しかし仕事の依頼があれば早退したり遅刻したり欠席したりで、まともに通えた事もなく友達とも遊ぶ機会などほとんどなかった。
「学校、か。なんか懐かしい響きだな」
 テン♪ テケテケテケ♪ テッテン♪
一人黄昏れている時にどこからともなく笑〇のテーマが流れてきた。
「おっと」
 ポケットから携帯電話を取り出しディスプレイを見る。するとそこに御影木の葉の名前が表示されていた。
「叔母さんから? 一体なんだろ。また嫌な予感がするけど」
 叔母の御影木の葉には小さい頃から、しょうもない悪戯で何度か酷い目に遭った記憶がある。
 しかし出ないわけにはいかないので、とりあえず電話に出る事にした。
「…………もしもし?」
「ちょっと! もっとさっさと出なさいよね!」
 久しぶりだと言うのに開口一番がこれである。
 なんて言うか懐かしさからの感動など微塵も感じられない。いや感情が動いたと言う事であれば、これもきっと感動なのだろう。