町というにしては家の数が少なく、五軒ほどしか見当たらない。
このうちの、どの家が前王妃の家なのだろう。
ロッドが迷っていると、近くにあった家から男が出てきた。
男は赤い髪の毛で、来ている服はズボンだけである。手には丸い桶を持っていて、町と呼べるか否かの小さな集落の真ん中にある井戸へ歩いていく。
ロッドは男に声をかけた。
「すみません」
「あ?」
男が振り向いた。
男の顔つきは険しく、明らかに不機嫌である。
人選を間違った。
ロッドはそう後悔したが、声をかけてしまったのだからもう後戻りはできない。
「…この町に、ガブリエル…さんがいらっしゃると窺ったのですが」
彼女は前王妃であるが、“前王妃は死んだ”というのが常識であるため、ロッドは前王妃と呼ばなかった。
「あぁ、あの人か。あの人はまるで聖母のような方だ。…オマエ、知り合いか?」
彼女のことを口にした途端、男の顔つきも口調も和らいだ。



