相変わらず、カイルの頭には、クリスティーヌのことが離れず焼き付いていた。兄のイアルは既に彼女のことを振り切って貴族の娘と結婚した。

 だが、カイルはまだ振り切ることができずにいた。

 あの時――クリスティーヌと最後に会ったとき、なんで王宮から聞こえた声に反応してしまったのだろう。

 王宮へ行かなければ、自分はクリスティーヌといられたはずなのだ。

 後悔の念ばかりがカイルの頭を支配していた。

 カイルがずっと自分を責めつづけ、クリスティーヌのことを考えているせいで、ミィナも子供を迫ったりしない。

 庶民の間では、夫婦仲が悪いと評判のようだった。

 だが、カイルが王になってから前国王の時より治安が安定したこともあり、王としての評判はオラシオンの次によかった。

 父の前の国王オラシオンは、この国始まって以来一番愛された王だったと聞く。

 そんな男の娘だったクリスティーヌが王妃だったなら、きっともっと良い国造りができていたのだろう――。

 何を考えても、やはりクリスティーヌに結びついてしまう。

 もう彼女の死から十年が経っているが、彼女への想いは募っていく一方だった。