「はいっ」

 アリシアが立ち去っていく。

「クリスティーヌ!!逃げて!!」

 クリスティーヌの母が叫ぶ。

 カイルはクリスティーヌの母を見た。

 彼女も、刃物で斬りつけられ、地面に倒れ伏す。

「お母様!?」

「早く逃げて!!」

 クリスティーヌはショックなのか、動こうとしない。

「逃げろ!!」

 カイルは思わず叫んでいた。

「でも…っ」

「オマエが死ぬのだけは、絶対に嫌だからな!!」

 クリスティーヌが白い頬を赤く染め、そのまま走り去る。

 その背中をカイルは祈るような思いで見つめていた。

 ――頼むから、生きて戻ってこい。

 刃物を持った男が、王宮の敷地を出たクリスティーヌを追って走っていくのが一瞬だけ見えた。