チャンス到来。

 その言葉が、カイルの脳裏でネオンサインのように点滅していた。

 今日、父が視察で出かけることになったため、塀を越えようとして怒ってくる邪魔者がいなくなったのだ。

 それは、塀を越えたくてウズウズしていたカイルにとって、チャンス以外の何物でもなかった。

 カイルは、自分が王子であるとすぐわかってしまう派手な服を脱いで、ガトヤの貧乏人が着ているような地味目の服を身にまとった。

 外に出て、夫婦樹の傍へ行くと、かすかに城下町から声が聞こえる。小さい声で、何を言っているかはわからないが、いつにも増して賑わっているのを見ると、もう父が城下町の方へ辿り着いたのだろう。

 カイルは夫婦樹の根元に立ち、コブに右手をかけた。

 この間と同じ要領で二本目の枝までたどり着く。

 まだ、塀より下の位置だった。

 カイルは上を見上げる。もう少し上へ行くと、二本の木が絡み合っている位置だから、今よりも上りにくくなるだろう。

 そう考え、カイルは身震いした。