いつも優しい父がこれほど厳しい口調を出すのはよほどの理由があってのことだ。

 クリスティーヌは仕方なく口を閉ざした。

 そのまま前に顔を向けると、不意に通行人が道を開け始めた。何故かはわからないが、クリスティーヌも皆に会わせて道の脇にどく。

 すると、開け放たれた道を王の列が通って行った。

 金を無駄だと思えるほど使って作られた王の乗る籠にクリスティーヌは目を見張った。

 王の列が近づいてきたときである。不意に父が口を開いた。

「すまない、クリスティーヌ。家に忘れ物をしてしまった。すぐ戻るから、ここから離れるなよ?」

 言い残し、彼は元来た道を走って行った。

 慌てて忘れ物を取りに行ったようにも見えるが、クリスティーヌには、ここから一刻も早く逃げ出したいように走って行ったかのように見えた。

「…変な父さん…」

 クリスティーヌはボソッと呟いて、目の前を通って行く王の籠を眺めていた。