「僕が心に決めたのは、そのクリスティーヌという少女です。王様――いえ、父上。どうか僕と彼女の婚約をお許しください」

 最後の願いだから…とイアルは心の中で言った。

 王は何も言わない。

 ただ、顔を強張らせて、目を宙に彷徨わせていた。

「…父上?」

「…考えて、おく」

 父が感情のこもっていない声で言う。

「え」

「わかったら、早く出て行け!!」

 父の大きな声に慌ててイアルは立ち上がり、部屋から転がり出た。

 クリスティーヌの名を聞いた途端、彼の顔は強張った。

 あれは、一体なんだったのだろうか。

 イアルは考えながら王宮を出た。

 中庭の方を見ると、カイルが寝そべっているのが見える。

「俺から全てを奪った男――カイル…」

 オマエが憎い、とイアルは呟いた。

「君以外の女なら弟をどう愛そうが構わないよ…」

 イアルはクリスティーヌのことを思い、空を見上げて言った。

 だからお願い、君だけは俺のことを好きでいて――。