イアルは椅子から下りて床に膝まづいた。

「最後の願い?」

 王が訝しげに聞き返してくる。

「僕の父として、僕の婚約を認めてください」

「婚約、か」

 なんだ、そんなことかと言いたげに国王は呟いた。

 イアルは額を床に押し付けたまま、

「はい」

 と答える。

「まさか、その婚約相手もこの俺に決めさせようとしているわけではあるまいな?」

 信じられないが、と付け加えてしまいそうな口調で、或いは首を縦に振らせない口調で王は言った。

 イアルは

「それは違います」と告げる。

 王の威圧感に負けてそう言ったのではなく、もう誰にするかは決めていたのだ。

「城下町の西に小さな町があって、そこに住む少女がいます」

 イアルはゆっくりと言った。

「その少女の名は、クリスティーヌ」

 イアルは微かに顔を上げる。王の顔が、はっきりと強張っていた。