「…カイル」

 名前を呼ばれ、カイルは顔を上げた。

 怖い顔をした父が、カイルを見ている。

「はい」

 震える声が、口から出た。カイルは目を閉じて、もう一度顔を下に向ける。

 目に映るのは、中庭にある石畳の通路だ。

「噂は、本当なのか?」

 噂。

 その言葉に、カイルはゆっくりと顔を上げる。

「重臣フィオーレの娘、ミィナに告白をしたというのは、本当なのか?」

 カイルは暫く黙っていたが、父の顔が険しくなるのを見て、首を振った。

「いいえ、違います」

 カイルは、クリスティーヌのことを言おうとしてやめた。

 だが、もうカイルも結婚のできる歳だ。この噂を機に、縁談が父の口から出てきてもおかしくない。

 何か言わなくては。

 カイルがそう思って、口を開いた時だった。