「…クリスティーヌ、今日は一緒に市場へ行こうか」

 父の言葉に、クリスティーヌは驚いた。

 今までは、クリスティーヌが一人で行くことが多かったからだ。

「…お父様?」

「たまには、一緒に出掛けようと思ってな」

 父はそう言って、クリスティーヌの手を掴んだ。

◇◆◇◆

 市場は毎日賑やかだ。

 クリスティーヌは父の手を握り返しながら道の脇に並ぶ店を眺めていた。

「お父様」

 クリスティーヌは店から目線を逸らし、父を見上げた。

「なんだ」

「…ねぇ、あの樹はなんなの?」

 今まで市場から見たことはあったが、聞くことはできなかったのだ。