私の前に独りの女が立っている。



【首】



世界は淡い淡い碧色をしている。今にも消えてしまいそうな、白に溶けてしまいそうな、弱々しく薄い碧だ。

上にも横にも果てはない。足元は、これまた果てなき水溜まり。どこまでも澄み切っているのに、なんの姿も映さない。



どれもこれも、別段驚きもしない。この世は私の鬱屈であり、憂鬱であり、鬱憤であり、そして私その物なのだから。

それは器にして箱庭のような。
慟哭にして快楽のような。

つまりは己のみが立ち入る権利を持つ、壮大でちっぽけな砂漠なのだ。私に忠実なのは当然の事。

私もまた私の世界に忠実だ。
太陽なんて望まない。



となると、女も私の一部なのだろう。鏡を覗き込むように、そっくりそのまま“私”だった。

「ねえ、」

けれども今この瞬間、確信した。
この女、私であって私じゃない。

「後悔してるんでしょ」

私ならそんな風に不用意に喋り出したりはしない。自ら台詞を発するなんて真似、私には苦痛でしかないのだから。

私ならそんな風にさらっと笑ったりはしない。滑稽な仮面を被るので必死なのだから。

私ならそんな風に単刀直入な言い方はしない。いつだって私は怯え、俯いているのだから。



私ならそんな風に――。