【マスカレイド】



「嘘吐き」

蘭の心臓は飛び上がった。嘘吐き、うそつき、ウソツキ。これまで幾度となく彼の鼓膜を震わせてきた単語に、今更動揺などする筈がなかった。にも拘わらずこの時、蘭の中で、何かが軋んだ。

「ああそうさ、俺は大嘘吐きだよ」

偽りを語るのは楽だった。己を晒す必要がないというのは、暗闇の奥から明るい世界を覗いているような気分がした。向こうから此方は見えない。此方からはなんでもお見通し。なんと愉快な事か。

それなのに今、平静を装うのがこれ程難しいとは。

果たして自分は闇の中になどいたのだろうか。本当は最初から、求め続けていたのではないか。本当は誰より、焦がれていたのではないか。

「俺は凩、君なんて好きじゃないし、紺も千明も藍も、勿論朔良も、みんなみんな大嫌いだ」

鎧だと信じて疑わなかった虚言が、己の胸を貫いている。今やそれは剣となっていた。