喉がからからで、戯言のひとつも紡げそうにない。
「そうやって、無理に笑うのやめてよ」
絞り出すような朔良の声への応えは、脆くも強かな微笑。渇いた春の終わりに、じっとりと貼り付く微笑。虚しくて虚しくて、悔しくて、それなのに、いい気味だと優越に浸る自分もいる。
感情に名を付けるのは愚かな事だ。幼児期にありがちな、単色のみで構成された絵とは訳が違う。青のチューブから出された青色では青しか描けない。しかし彼女らは己が握り締めたチューブの色さえ分からないのだ。
凩の黒髪は決して柔らかくはなかったけれども、生温くて不快な風に靡くその髪に、朔良は無性に触れたくなった。掴まえたくなった。
互いが互いを、あたかも画面の向こうの出来事のように眺めている。双眸が映すのは、陳腐な焦燥とくだらない嘆傷ばかり。
ノイズ雑じりの感受性は切れ掛けの電球に似ていた。
空を黄色で塗り潰したら、漠々とした不安も不満も、解けてなくなるだろうか。
「朔良ちゃんに言われたくないよ」
少女の見せた穏和な笑みが侮蔑でないのだけは確かだったが、諦念か或いは漸進の兆しなのか、朔良には量りかねた。
「朔良ちゃんは私に理想を見てるの? それとも私はぬるま湯?」
喉がからからで、科白のひとつも紡げそうにない。
【ずるい】