【荒野のサンドリヨン】



砂塵舞う道なき道を、真白の鳥が嘲笑う。曇天を泳ぐ鯨の瞳は、逝く人を見下ろし涙を落とした。結局、雨は何もしてはくれない。

「光を知らないのと亡くすのと、どちらが不幸でしょう」

「さあ。僕は知っているを知らない、君は亡くさないしか知らない。ついでに足もない。嗚呼、銀の靴はどこへ行った!」

荒れ果てた広野に浮かび上がる二人の旅人。

「愛されるのと愛するのと、どちらが辛いでしょう」

「さあ。僕は愛されるを知らない、君は愛されるしか求めない。待ってばかりのサンドリヨン。嗚呼、金の靴はどこへ行った!」

一方はしたたかな女、もう一方は美声好きな男。

「靴なら私が履いています。どうか私に幸福を」

「君には足がないじゃないか。いやいや、僕がちょん切ってしまったんだ。嗚呼、硝子の靴はどこへ行った!」

「それは私の姉ですわ」

嗚呼、なんと哀れなサンドリヨン。自力では、何も得られぬサンドリヨン。

生まれ持った美貌も、盲目の王子の前では意味を成さず。彼は可憐な少女より、見えもしない靴に夢中なのだ。

嗚呼、なんと不幸なサンドリヨン。

「確かなのは、僕に魔法は使えないって事だ」

仮初めの色彩など疾うに褪せてしまったのか。或いは初めから、白黒の非力から目を背けていたのか。

サンドリヨンは魔女を失ったのではない。自ら灰に飛び込んで、煤にまみれたのだ。自らの足で、南瓜を潰し鼠を蹴り殺したのだ。