「陽萌ー、陽萌陽萌ー♪」



酔ったらしく、ベタベタと私に纏わりついてくる湊を軽くあしらう。

それでもすぐに纏わりついてくるから放置するしかなくて。



「俺ミナトさん家知らねぇ。」

「私も知らない…。」



ふらつく体をなんとか保ちながら言うと、「だよな」と苦笑いする煌。

同棲していたあの頃から、引っ越していない保障はないし。



「とりあえずタクシー捕まえてきて。」

「おう。」



大通りに向かって歩いていく煌の背中を見送っていると、不意に足音が聞こえた。

と思った次の瞬間、湊が思いきり私を抱き締めてきた。



「陽萌ー…、好きー。」

「あーもう、分かったから! 離れてよ湊!」



なんとか湊を引き剥がすと、湊の後ろに人影が見えた。

さっきの足音の主…。



「…か、課長?」



酔った湊を支えるために湊の体に回された手は、端から見たら抱き締めているように見えるかもしれない。



「…加藤。」



目が合ってしまったその人に、誤解されたくないと思ってしまうのは、なぜだろう。



「どうしてここに…。」



そう呟いた私は、ちゃんと立てているのかすら分からなかった。頭がぐるぐるして、どうしてか泣きたくなってくる。

(課長…。)