「どう? いい返事はもらえそう?」



その日の夜、オシャレなバーの隅、グラスを光にかざした片野さんが私を横目に見ながら尋ねた。



「微妙なところです、相変わらず。」

「一月もかけて口説いてるのに…、本当に固いな、君は。」

「そこも魅力なんでしょう?」

「はいはい、その通りだよ。」



やれやれと笑った片野さんは、私の差し出したその紙を見て、ふっと笑った。



「うん、完璧。問題なし。」

「ありがとうございます。早ければ明日には提出できると思います。」

「うん。…でも、本当にいいの? 提案した僕が訊くのも変だけど…。」



差し出されたそれを受け取ると、それを眺めながら笑みをこぼした。



「どうなるかはまだ向こう次第ですけど…、これが私にとっても生渕にとっても、いい選択肢だとは思うので…。」



それを親指でそっとなでる。

この紙切れ1枚で、私の人生が左右される。世の中は、なんて軽いんだろう。



「…僕はいつでも、待っているからね。」

「ありがとうございます、こんなことに巻き込んでしまって…。」

「いや、正直楽しめたからね、大丈夫だよ。」



それを鞄に仕舞い立ち上がった私に続いて、片野さんも立ち上がった。



「……次に会うとき、いい返事が聞けると嬉しいよ。」

「…はい。」



差し出されたその手を握ると、軽く握手を交わした。