晋ちゃんの誘いを断った私は独りエレベーターに乗り込み、通常なら決して押すことのない階を押した。


社長室はこのビルの最上階にある。

その下の階にいつも使う休憩所があるから、感覚は何となくいつも通りなのに。


ドアが開いた先に広がる景色がいつもと違って、豪華な作りだからやっと少し緊張感が湧いてきた。



「営業部一課の加藤 陽萌です。」



秘書と思われるその人に言うと、奥に案内された。



「社長、加藤さんが見えました。」

「あぁ。」



社長室の両方の壁にはシェルフや本棚があり、部屋に入って正面には大きな机。その手前には応接用のテーブルとソファが置いてある。

そして机の後ろに立ち、窓から空を眺めているその人こそが、我が社の社長…。


静かに秘書の人が退出すると、訪れたのはただただ沈黙。



「……加藤 陽萌くん、だったね。」

「はい。」



私と社長の接点なんて、この状況下では源しかない。

だから言われるなら絶対に源のこと。
そう、分かり切ってる。



「君は生渕くんと付き合っているんだったね。」

「…はい。」

「そうか…。」



こちらに背を向けているため、社長の顔は少しも見えない。ただ背中だけが見える。

よって、社長が今何を思っているのかはサッパリ分からない。