「陽萌ー。」



エントランスを横切る私を呼び止めたのは、煌だった。

外回りから戻って来た私はブツブツ独り言を言っていたから、反応が少し遅れた。



「あ、煌。」

「独り言怖ぇんだけど。」

「あ、あはは…。」

「何か殺気立ってんじゃん。」

「そう…?」



そんなつもりはなかったんだけどなぁ…。



「煌はこれから出るの?」

「あぁ、ミナトさん所。」

「そっか、まだコラボやってるんだ!」

「今期でたぶん終わりだけどな。」

「そうなんだー。」



ミナトかぁ。何だかもう随分前のことのように感じる…。

あの頃はまだ付き合ってなくて…。


(駄目だ…。源のことしか考えられない…。)

ブンブンと頭を振る私に苦笑しながら、煌は鞄を持ち直した。



「……っつーか、チラホラ噂になってんぞ。」



煌が急に声を潜めたもんだから、私もつられて声を潜めてしまった。



「何が?」

「生渕さん。社長の娘と見合いしたって。」

「…そう、なんだ。」



出所は分からないけど、たぶんただの噂じゃなくて、真実。

真偽はまだ、分からない。