そう言って振り向くと、窓の縁に、今度は背中を預けた。



「だけど、1つアドバイス。」



先ほどまでの表情を崩すと、いつものように微笑んで言った。



「今回の相手は元常務と専務よりも強敵よ。そろそろ動き始める。」



どこぞのバトル漫画か何かのような雰囲気に、思わず手に汗握る。

何が待ち受けているのか、分からない。



「頑張れとは、言えないけれど。強いて言うなら、陽萌の頑張りどころね。」

「私…?」

「そっ。これ以上は、言えないわ。」



私の頑張りどころって…、どういうこと…?
また出向させられるとか…?


首を捻る私を余所に、源はすっと立ち上がった。

その表情は仕事仕様のポーカーフェイス。



「分かった。助かった、敏。」

「……ええ。」



しばらく見つめ合った2人からは緊張感が漂ってきて、誰も言葉を発することはなかった。

そして、互いにフッと笑った。



「…元気でな。」

「そっちこそ。」



2人がこの約10年で築き上げてきたものを、身に染みて感じた。

源が扉に向かって歩き出したから、小走りでその背中についていく。



「敏ちゃん!」



走る足を止めずに、ちょこちょこ振り返って敏ちゃんに叫ぶ。



「敏ちゃん、ありがとう! 絶対、遊びに行くからね!」



そう叫ぶと、そんな私に、微笑みながら手を振る敏ちゃん。

私は笑顔を返すと、そのまま源の背中を追い掛けた。