「処罰なんか、いらない。」

「お前なぁ…。」

「彼女は大事な戦力。欠かすことなんてできない。」



そう言い切って、恵也の目を見つめる。

恵也は言葉に詰まったように何も言わずに、私の目を見つめ返していた。


少しの沈黙の後、恵也は大きな溜め息を吐いた。



「もうお前にゃ敵わん。好きにしたらええ。」

「ありがと。」



恵也に微笑んでから階段を上り、彼女に近付く。



「…もう、こんなこと止めて。」

「……。」

「私を落としたいなら、下から引きずり下ろすんじゃなくて、上から蹴落としてよ。」



彼女は私の目を見つめたまま、驚いて目を見開いた。



「あなたには力がある。だから、あなたを失うのは私たちにとって大きな痛手なの。」

「加藤さん…。」

「まあ仕事では、の話だけど! 他の部分、私生活の部分で私とやりあうなら、勤務時間外でよろしくお願いします。」



腰に手を当ててそう言うと、彼女は大きく溜め息を吐いた。



「アンタ…ホンマむかつくわ。」

「へ?」

「優先順位は全部仕事なんやな。」

「源のこととかが入ってたらそっちを優先させるだろうけどね。」

「ふん…。さりげなく仕事やれって言うんやもんなぁ、やらなアカンなぁ。」

「そんなつもりは…。」



返答に困る私を他所に、彼女はさっさと階段を上って行ってしまった。