「陽萌の彼氏の生渕 源だ。東京の本社では営業部の課長をしている。」



その言葉を聞いて、恵也の眉間に皺が寄った。

声に出さずとも分かる、「部下に手を出したのか」と目が言っている。



「陽萌に一人暮らしをさせるのは心配だったんだが、気心の知れた人が隣なら安心できる。」

「…余裕か。」

「いや、本心だ。」



確かにこれは源の本心だろうけど、その裏には恵也が言うように余裕が隠れている。

源は完全に恵也を牽制している。



「陽萌が迷惑をかけることもあるだろうけど、よろしく頼むよ。」



そう言ってもう1度笑うと、源はドアから鍵を抜いた。

かと思うと、玄関のドアを開いて私を押し込み、雪崩れ込むように部屋に入ってきた。


後ろ手で鍵を閉めると、源は私を強く抱き締めた。



「源…、あの…。」



何て言えばいいの?

言わなくてごめんなさい?


狼狽えた私は源が腕の力を緩めるまで、ただ抱き締められていた。



「…さっきの奴。」



私の肩に手を置いて私の顔を覗き込んだ源の表情からは、何も読み取れない。



「元彼、なのか?」